上尾賃貸物件 【シンガポール】日系小売の海外進出を下支え:キャピタランド、アジアへ誘致
不動産最大手の政府系キャピタランドは、国内外での商業施設事業の拡大に伴い、日本の小売業者の海外進出を促進する役割を強化する考えだ。日本で複数の商業施設を運営していることや、シンガポール国内の大型ショッピングモールに多くの日系テナントを誘致している実績を生かし、中国やマレーシアなど同社が事業基盤を持つ地域に日本企業が参入するのを手助けするとともに、アジアでも有数の商業不動産運営会社としてプレゼンス強化を図る。
キャピタランド・グループは、アジア太平洋地域を中心に110都市、20カ国・地域で事業展開するアジア最大規模の不動産会社の一つ。商業施設事業では、子会社キャピタモールズ・アジア(CMA)を通じてアジア全体でシンガポール、日本、中国、マレーシア、インドの49都市でショッピングモール92カ所を展開。国内では繁華街オーチャードのアイオン(ION)オーチャードや都心部のブギス・ジャンクションなど一等地でシンガポールを代表する商業施設を運営しており、こうしたモールには多くの日系テナントが入居する。日本では2004年以来、ラパーク瑞江(東京都江戸川区)やビビットスクエア(千葉県南船橋)など商業施設7カ所を所有・運営している。
CMAの広報担当者はNNAに対して「日本の小売業者の多くは業界のトレンドの最前線に立っている。当社はシンガポールや中国の商業施設にこうした店舗を多く誘致してきた。テナントにはユニクロや無印良品、ワタミ、ダイソーなどが含まれ、いずれも好調な実績を挙げている」と指摘。「今後もアジアを代表する商業施設運営会社として、日本の小売業者が海外進出の足掛かりとなるようなプラットホームとしての機能を果たしたい」と説明している。
今月中旬にはファッションビル大手パルコと業務提携に関する基本合意を締結。CMAが中国に持つ既存・新規の商業施設の運営で協力する計画で、中国初進出となるパルコにとっては、現地で強固な基盤を持つCMAのノウハウ、顧客ネットワークを活用したい考えだ。また日本でもCMAが運営する商業施設7カ所にパルコがテナントを紹介することも視野に入れているという。
■総資産で中国分を45%へ
グループ全体では、日本で商業施設のほか、サービスアパート、住宅、複合施設などを所有・運営している。総保有資産に占める日本の割合は2%以下(昨年12月時点)と少ないが、「長期的な視野に立った不動産開発会社として、さらに存在感を高めいく」意向だ。
キャピタランドのアジア戦略としては、中国を中心に不動産投機抑制策が導入され不動産市場の冷え込みも予測されるが、事業機会があれば各地で積極的に投資を進める。商業施設や複合施設、住宅、オフィス、サービスアパートなど多面的に展開している主要投資先の中国は、堅調なファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)、消費支出の拡大、インフラ投資の増加、都市化の進行を受け、今後も開発事業を加速させる計画。同担当者によると、中国の保有物件が総資産に占める割合を昨年の約35%から将来的には45%まで引き上げる。
また中国に次ぐ海外重要市場と位置付けているベトナムでは、住宅開発プロジェクトやサービスアパート事業などを展開。同国での保有資産を現在の4億Sドル(約267億円)から3~5年以内に20億Sドルと5倍に拡大したい考えだ。中国、ベトナムでは急速な都市化を受け中間所得層が拡大していることから、低価格住宅市場にも参入。商業施設やオフィスと並びグループ全体の主要事業の一つになりつつある。
こうした海外展開戦略の結果、昨年には世界的に権威のあるイギリスの伝統的金融専門誌「ユーロマネー」のリアルエステート・アワード」の世界部門、アジア部門、シンガポール部門でそれぞれ「ベスト・デベロッパー賞」などを受賞している。
大和証券キャピタル・マーケッツのパンアジア調査チームが公表したリポート「アジアに街創りを輸出するシンガポール企業」によると、キャピタランドはアジアの新興市場に深く根付いた大手不動産会社の一つ。総合的な都市(タウンシップ)開発型のビジネスモデルは展開していないが、都市開発の一部である商業施設、オフィス、サービスアパート、住宅、金融サービスなど重層的な不動産事業を展開している。アジアの主要市場の大半に進出しており、域内不動産事業を熟知し、域内の経済活動の活発化、所得上昇、都市化、消費主義の拡大、娯楽の発達といった面で恩恵を受けている。複合商業施設では「ラッフルズ・シティー」ブランドの輸出競争力が高い。
■安定投資可能な体質
シンガポールにはケッペル・ランドなど海外事業を積極推進する同業他社がいるが、「キャピタランドは投資、開発から運営、管理まで一括して手掛けるのが強み。債務額も低く健全な財務体質を維持しており、安定した投資が可能」(同担当者)という。大和証券も、「不動産金融サービスを拡充し、手数料収入を増やすなど資産運用業務を強化しているほか、戦略外資産の時宜を得た売却や、利回りの高い投資への資本振り分けなど積極的な資本政策を通じて、事業効率性を保っている点が他社と異なる特徴」と指摘する。
ただ今後は、シンガポール、中国での不動産投機抑止策の導入に伴う不動産市場の軟化といったリスク要因も懸念される。インフレ高騰、利上げなどで世界経済が低迷した場合、投資戦略に影響が出る可能性も指摘されている。どれだけ市場リスクを抑えながらアジアの経済成長を取り込めるかが、今後の事業成長の鍵となりそうだ。